ふるえる遺伝子

私たちは誰一人として
孤島ではない


もし寂しさを感じる力がまだあるのなら
人は孤島ではないのだ


寂しさはナニモノカや
だれかとつながっていた記憶の残照が呼び起こす確かな絆の証


それを紛らわせる必要も忌む必要もない


寂しさが人を正気に孵す

寂しさの記憶は
その人につながるはるか遠い昔
DNAに刻まれた
記憶の振動であるかもしれないのだ


寂しさの波動に包まれたとき
人は空を見る
星を仰ぐ
木々の鼓動を聞く
花の香りに心を向け
鳥のさえずりに耳を澄ます
蝶の翅に魅了され
魚の溜め息に微笑む


いつか同じように
世界を探求した
あの日の誰かに
人は出会う


時空を一瞬に超えてつながる
見えない確かな糸が
遺伝子を震わせる


寂しさが硬質な人間を
人に還す


狂気の内に見失いかけた人であることの意識を


破滅の淵で呼び戻す