トンボの記憶
昆虫の中で
トンボの羽がいちばん薄いのだと
中学の理科の先生に教わった記憶がある
「だから、神様が何か好きなものをくれると言ったら、トンボの羽をつけてもらう。学校の屋上からさ、町を眺めて、今日はあそこに行こう!ブーン…って飛んで行ける…いいよね〜」
受験で忙しい生徒に
まるで役に立ちそうもない雑談をして
授業の大半を潰していた
今になって
受験勉強で記憶したことは何一つ覚えていないのに
トンボの羽が昆虫の中で一番薄いことは知っている
それは
何の役にも立たない知識
けれど、それを知っていることは
生きることをとても豊かにしてくれる
トンボを見るたびに
思い出す
自由に空を飛びたがっていた
判読不能なほど汚い字を書く
理科の先生の
無駄という豊かな時間…